大判例

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東京高等裁判所 昭和54年(ラ)988号 決定

思うに、仮差押え(民訴七三七条)はもとより、係争物に関する仮処分(同法七五五条)にしても、また、仮の地位を定める仮処分(同法七六〇条)にしても、それらが保全処分と総称されることからみても明らかなごとく、権利の実現を阻害すべき危険がある場合に、紛争の訴訟的解決に至るまでの間暫定的にその危険を除去ないし防止して権利を保全せんことを本来の目的とするものであるが、賃金等の仮払いを命ずる仮処分は、権利の保全とは何らの関係もなく、専ら申請人に仮りの満足を与えることを目的とするものであるから、この種仮処分は、請求権の実現が遅きに失するという現在の危険が存する場合に限り、しかも、かかる危険を避けるのに必要な限度においてのみ許されるにすぎないものと解するのが相当である。

ところで、記録によれば、抗告人らは、数次の仮処分により、昭和四六年七月から本件申請時に至るまで約八年間にわたり毎年の引上差額分をも含めた賃金の全額にとどまらず、夏季及び冬季の一時金についてまでもその仮払いを受け、本件仮処分申請時における抗告人らに対する仮払賃金の月額は、抗告人藤原が一九万七、九六〇円、同鈴木が一四万八、七七五円、同吉田が一四万四、九〇〇円、同有坂が一六万三、九八〇円に達しており、これに原決定の認容する昭和五四年五月分以降の昇給差額分を加わえれば、抗告人らに対する仮払賃金の月額は、抗告人藤原が二一万〇、八九五円、同鈴木が一五万八、一六五円、同吉田が一五万三、六八〇円、同有坂が一七万二、四七〇円となるうえ、最も高額の仮払いを受けている抗告人藤原を除くその余の抗告人らは、扶養家族を有していないことが一応認められるので、本件仮処分申請に係る賃金等の全額につき仮払いを受けるのでなければ自己及びその家族の生活が危殆に頻するという現在の危険が存在するものとは認められない。

(渡部 浅香 中田)

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